多くの和太鼓集団が、それぞれの個性を持って活動を繰り広げている。大きなものになると直径が2メートルを超える迫力のある太鼓の音は、客席に座っている観客の身体に直接響くほどの重みを持っている。その響きや音質が、我々日本人が持っている「原初の感覚」を呼び覚ますのだろう。だから、多くの和太鼓集団が支持を集めているのだ。

 私が観て来た和太鼓集団は、大別して二つの見せ方・聞かせ方に別れているように思う。一つは、「和太鼓」の民俗芸能的・土着的な部分をそのままに活かすもの。ここに属するのは、奈良県の明日香に拠点を置く『倭』ではなかろうか。もう一つは、その上で、ショーアップの要素を大きく盛り込み、「ショー」としての確立を目指すもの。ここにいるのが、今回の『TAO』である。両者の間に立つのが佐渡島に本拠地を置く『鼓童』ということになるかもしれない。

 1993年に産声を上げ、1995年に大分県に拠点を移した『TAO』は、和太鼓を世界で通用するエンターテイメントとして、ショーアップの進化を重ねて来た。現在まで、世界23か国で700万人の観客を動員しているという。この活動の中で、米米CLUB、歌舞伎役者の中村勘九郎・七之助兄弟、先日行われた歌舞伎の市川染五郎とプロのアイススケーターたちとの競演『氷艶』など、異分野とのコラボレーションに意欲的なことも、『TAO』の特徴の一つだろう。今回の公演も、衣裳をコシノジュンコが担当し、「世界」を意識した創りでクオリティの高い映像も駆使している。

 2017年のツアーのテーマは「ドラムロック 疾風」で、テンポよく舞台の構成や楽曲を変え、観客の五感に訴える迫力が凄い。和太鼓集団の場合、海外ツアーが多く、多国で舞台を演じなくてはならないこと、また、肉体を酷使して太鼓を叩くパフォーマンスがメインであるために、観客との対話をしている余裕がない。そのため、おいおい無言でのパフォーマンスになるが、だからこそ、肉体の全身を使ってその極限とも言えるものを見せ、聞かせる。それが、観客に直接「音」として訴えかけるのだ。

 男女を問わず、鍛え上げられた肉体で、太鼓と格闘するさまは、ある種のスポーツを観ているような感覚にさえ陥る。事実、1時間40分のステージで使うエネルギーは、相当なスポーツに相当するだろうし、それに耐えうる肉体がなくてはならない。しかし、そのテクニックやエネルギーの凄まじさだけを見せるのではなく、そこから生まれる客席との一体感、これが大切であり、今回のステージの真骨頂なのだ。無言のパフォーマンスで打ち出す太鼓の音が、観客に共通した感覚として伝われば、そこに言葉は必要ではなくなる。音が含むメッセージを受け取った観客も共に躍動することで、彼らのエンターテイメントが成立するのだ。

 5月に故郷・大分で幕を開けた今年のツアーは、東京での講演を終えた後、猛暑の日本を駆け抜けながら、12月27日まで続くという。日本列島を「疾風」の如く駆け抜ける彼らのエネルギーには感心するばかりだ。