1973年に、佐藤B作を中心に結成された「劇団東京ヴォードヴィルショー」。今年で45年の歴史を刻んでいることになる。喜劇に特化した歴史を持つ劇団という点では、「劇団NLT」と双璧をなす存在だ。今回は、「ラッパ屋」の鈴木聡の作品『終われない男たち』を文学座の鵜山仁が演出し、出演者も佐藤B作、あめくみちこ、佐渡稔、石井愃一、市川勇、山口良一らの劇団メンバーに、「ラッパ屋」から石倉三郎、綾田俊樹らが客演として加わった豪華なメンバーだ。
超高齢化社会が進む中、同じ年齢でも30年前よりは遥かに元気な「現役世代」が増えているのは好ましいことだ。その一方で、人生の終盤を迎え、最期の支度をどうするか、という「終活」なるものが最近流行っている。私はこの手の言葉が大嫌いで、昔から「老いの身支度」「身じまい」などの言葉があるのに、何でも適当に略してしまう安易さは、時代の象徴でもあろう。この作品は、「65歳」という一つの区切りの年齢を迎え、まだまだ自分の人生を身支度するには早い、と考える人々が、かつて見た夢に向かって「悪あがき」をする芝居だ、とでも言えようか。
「悪あがき」と書くとマイナスのイメージを与えそうだが、我々の人生は、何をどう見ても悪あがきに近い部分は多い。古くからある「昭和の匂い」たっぷりの商店街。再開発で取り壊そうとする一派と、だんだん衰えながらも昔ながらの風情と佇まい、そこに漂う人情を残そうと頑張る一派の闘いが、東京ヴォードヴィルショーならではの味わいと、役者の個性で描かれている。佐藤B作の熱演、石井愃一の怪演、佐渡稔、市川勇の力演に加え、石倉三郎の持ち味、などが巧くミックスされた楽しい芝居になった。綾田俊樹の飄逸とした風情は、かつての益田喜頓のようでもある。
「真面目な喜劇」が少なくなっている今、こうした舞台は非常に貴重である。適当な喜劇やコメディまがいの作品は巷に溢れ返っている。しかし、真面目な喜劇を創るには、脚本に加えて役者が良くなければいけないのは当然ながら、役者同士の「間」の勝負でもある。昨今、芝居のイキや間など無視し、自分の台詞さえ無事に言い終われば関係ない、とでもいうような舞台も多い。だから、手練れとも言うべきメンバーが顔を揃えたこういういう作品が支持されるのだろう。加えて、殺伐とした世間の現状を描きながら、最後に心の中にポッと明かりが灯るような芝居で、そうした点では「大人の喜劇」でもある。誰もが多くの問題を抱えながら人生を重ねる中で、「こんなはずでは…」「もう一度何とか…」と思うことはしばしばある。それを、舞台の上から「そうなんだよ、まだ諦める必要はないんだ!」と出演者からのエールが聞こえるような芝居だ。
まだまだ終わらない人々のエネルギーに溢れた芝居は、劇団の名にふさわしい「ヴォードヴィル」の精神に溢れている。まだまだ元気一杯に暴れてほしい劇団だ。