2011年の初演以来、今回が4演目となる『滝沢家の内乱』。『南総里見八犬伝』で名高い滝沢馬琴(1767~1848)が、この大長編を執筆中に目を患い執筆が不可能となり、息子の嫁・お路が口述筆記で残りを完成させた、というエピソードは有名だ。そこだけに焦点を当てるのではなく、滝沢馬琴がどのような環境の中で日々を過ごし、歴史に残る名作を書き上げたのか。そこに目を付けた劇作家の吉永仁郎(1929~2022)の佳作とも言える作品だ。馬琴と言えば、日本で初めて原稿料で生計を立てることができた文筆家など、エピソードには事欠かない人物だが、あえて「滝沢家」の内部のみに焦点を当てたところに、作者の劇作家としての優れた眼が光っている。
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