演劇批評

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「朗読と音楽の夕べ」2016.06.14 六本木クラップス

 ここ数年来、制作費の関係や本番までの作り込みが舞台よりも簡易なことから、「朗読劇」
が増えている。ラジオしかなかった時代、「朗読」や「ラジオドラマ」が一つの「芸」として高い評価を得ていた時代があった。そうした経緯を知ってか知らずか、最近の朗読劇の中には「お手軽」だけが先行し、「読む」、あるいは「聞かせる」ことの意味や重さを置き去りにした舞台が散見される。 続きを読む

『義経千本櫻』第三部 2016.06.10

 第三部は「狐忠信」と題し、義経の忠臣・佐藤忠信が物語の軸になる部分の上演。最初は踊
りの『道行初音旅』、通称「吉野山」で幕を開ける。面白いことに、タイトルに「千本櫻」とありながら、原作の中にはどこにも「櫻」の場面はない。全山櫻に覆われる吉野の春の風景は有名で、この舞踊の背景にも吉野山の櫻が満開の様子が描かれている。ただ、初演当時はこの背景も満開の櫻ではなかったようだ。こうした工夫一つを見ても、歌舞伎が長い歴史の中で、さまざまなカスタマイズを繰り返し今の形を作り上げたことがわかる。 続きを読む

『義経千本櫻』第二部 2016.06.10

 三部に分けての『義経千本櫻』、第二部は「いがみの権太」を中心に据えた二幕の上演。最初が「木の実・小金吾討死」。尾上松也の小金吾、市川高麗蔵の若葉の内侍、片岡秀太郎の小せん、松本幸四郎の権太という配役だ。 続きを読む

歌舞伎座『義経千本櫻』第一部 2016.06.04

今まで、八月公演だけしか行わなかった「三部制」を、試験的に他の月にも拡大したようで、今月は歌舞伎の「三大名作」の一つ、『義経千本櫻』を三部に分けて、通しに近い形で上演している。『義経千本櫻』であれば、平知盛、いがみの権太、佐藤忠信という三人の男を軸に据え、その運命を描くという考え方で場面を選べば、三部に分けて上演するには適切な名作だ。市川染五郎、市川猿之助が朝から夜まで大奮闘し、松本幸四郎が「上置き」の存在で第二部の「いがみの権太」を演じる、という構成も、観客の年代の広さに応えられる仕組みだ。三部に分けると、各部の上演時間が3時間程度で、従来の二部制の4時間~4時間半という上演時間に比べ、通常のストレート・プレイ一本分ですみ、一日がかりでなくとも歌舞伎が観られるのが何よりも気軽で良い。 続きを読む

「THE CIRCUS!」05.25 よみうり大手町ホール

 架空の都市・フォーダムシティは、経済の中心地であると同時に、国内でも最も治安が悪く、麻薬の取引が横行している。市長のアルバートは裏社会の一掃を願い、敏腕の麻薬取締捜査官・ケントの協力を仰ぐものの、裏社会はマフィアの「コッピファミリー」に牛耳られている。そんな中、ストリートサーカスのチーム「ミラージュ」と出会ったケント、そしてケントを狙うコッピファミリーのスワン。やがて、「コッピファミリー」を追い詰めた「ミラージュ」のメンバーとケントが出会った相手は…。
 ストーリーの展開だけを追っていけば、細かな点で綻びがあるのは否めない。しかし、この作品は、ストーリーの内容に感動することに第一点を置いたものではなく、「ダンス・ミュージカル」という形態で、歯切れよく展開するドラマとダンスをどう見せるか、に眼目が置かれている。 続きを読む

「東海道四谷怪談」2016.05.18 国立劇場

 毎年五月に恒例の国立劇場公演、今年は「創立85周年」と銘打って、第三世代が中心となって34年ぶりに『東海道四谷怪談』を上演している。創立メンバーであり、当代の河原崎国太郎の祖父に当たる五世・国太郎の上演以来のことだ。今年、第二世代の筆頭である中村梅之助を喪い、劇団の精神的支柱となくすという大きなショックを受けたが、前進座育ちで退団後幅広い活動を見せる瀬川菊之丞を記念公演の客演に迎えての意欲的な上演となった。 続きを読む

『エドウィン・ドルードの謎』 2016.04.07 シアタークリエ

 今、「チャールズ・ディケンズ」という文豪の名を挙げた時に、我々の頭に即座に思い浮かぶのは『クリスマス・キャロル』ぐらいのものではなかろうか。『オリバー・ツイスト』や『二都物語』も映画化、舞台化されており、どこかでご覧になった方も多いだろうが、『大いなる遺産』辺りになると、そろそろ忘れられているかもしれない。日本で言えば幕末から明治初期に生き、多くの作品を残した英国の文豪の、最期の作品がこの『エドウィン・ドルードの謎』だ。ディケンズの他の作品にはないミステリーで、「世界初の推理小説」とも言われている。しかし、この作品を執筆中にディケンズは急死し、「未完」に終わっているのだ。ディケンズの頭の中には、結末や犯人が明確になってはいたのだろうが、少なくもその結末は明らかにされてはいない。つまり、この作品は「途中で終わった推理小説」ということになる。 続きを読む

「二人だけの芝居」 2016.04.04 

 劇団民藝が、客演に岡本健一を迎え、テネシー・ウィリアムズの『二人だけの芝居』を上演している。舞台芸術が、幕が降りた途端に雲散霧消することに大きな価値の一つがあるのは承知だが、この舞台は後に「平成の演劇史」を語る折に、大きな記念碑となるであろう。第一の理由は、一昨年の2014年に『蝋燭の灯、太陽の光』でウィリアムズの作品の日本初演を果たした民藝が、もう一篇、ウィリアムズの作品を日本で初演した、ということだ。この『二人だけの芝居』は、いまだに人気の衰えないテネシー・ウィリアムズの代表作『ガラスの動物園』や『欲望という名の電車』とは明らかに異質の劇構成や感情によって描かれた作品である。 続きを読む

「死に顔ピース」 2016.03.23

 劇団「ワンツーワークス」が、主宰の古城十忍の作・演出により2011年以来の初演以来、東京で5年ぶりで『死に顔ピース』再演している。一口に言えば、昨今問題になっている「終末医療」をテーマにしたものだ。この芝居の観るべき点は、終末医療を施す医師の側と、末期がんの状況に置かれた家族との両方を対等に描いた部分にある。我々の多くは「患者」の立場に立たされる可能性はあるが、その命を預ける「医師」あるいは関係者の立場に立つことは極めて少ないだろう。 続きを読む

「三婆」 2016.03.03 東京芸術劇場 シアターウエスト

 1984年に53歳で亡くなった有吉佐和子の小説を劇化したこの作品、一体何度にわたって劇化、あるいは映像化されたことだろうか。1961年に発表された小説が1973年に小幡欣治により脚色され、初演は芸術座(現・シアタークリエ)だった。以来、キャストを変えながら東宝、新派などで上演されているが、文化座での初演は1977年のことだ。 続きを読む

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