昭和37年生まれの私は、戦争は知らない。昭和4年生まれの父から機銃掃射や空襲の話はたびたび聞いたが、リアリティを持つことはできなかった。私と戦争をつなぐ微かな糸のような記憶があるとすれば、昭和40年代初頭、今のように綺麗でも賑やかでもない頃の新宿の西口と東口を繋ぐ悪臭が漂うトンネルの際に、「傷痍軍人」と思しき人が白衣で座っていたのを、言いようのない、また理解のできない不安と恐怖で見つめていたことだろうか。 続きを読む
昭和37年生まれの私は、戦争は知らない。昭和4年生まれの父から機銃掃射や空襲の話はたびたび聞いたが、リアリティを持つことはできなかった。私と戦争をつなぐ微かな糸のような記憶があるとすれば、昭和40年代初頭、今のように綺麗でも賑やかでもない頃の新宿の西口と東口を繋ぐ悪臭が漂うトンネルの際に、「傷痍軍人」と思しき人が白衣で座っていたのを、言いようのない、また理解のできない不安と恐怖で見つめていたことだろうか。 続きを読む
男優だけで構成している劇団「スタジオライフ」が、手塚治虫の後期の代表作の一つ、『アドルフに告ぐ』を上演している。一つの作品をいろいろなキャスティングで上演するのはこの劇団の特徴で、今回も「日本篇」「ドイツ篇」「特別篇」と三つのパターンがあり、「日本篇」と「ドイツ篇」では、更にキャストがダブルで組まれている。。他の舞台を観ていないので、ここでは「ドイツ篇」だけに触れるが、他の作品のようにキャストが変わるだけではなく、この作品は、ゴールが同じでもそこまでのプロセスが、バージョンごとに違っているようで、そこは興味深い。 続きを読む
オーストリア発のミュージカルが完全に日本に定着し、『エリザベート』や『モーツァルト』などの作品が安定した人気を維持するようになって、日本のミュージカル・シーンは更に幅を広げた。この『エリザベート』の東宝版が日本で初演されたのが2000年の帝国劇場公演で、今年で16年目に入る。それ以前に、宝塚歌劇団で日本での初演を果たしている。今回も、6月13日から8月26日まで、約2か月半に及ぶ公演はほぼ完売に近い。最近のミュージカルでは当たり前になった、ダブル、トリプルのキャスティングで、同じ作品でも違った味わいが見られるのも人気の一つだろう。また、時代の移り変わりにより、メインキャストが変わり、過去のキャストとの比較もファンにとっては楽しみの一つだ。 続きを読む
この作品を、「歌舞伎なのかどうか」という視点で眺めれば、古くからの「古典歌舞伎」に馴染んだファンは眉をひそめるかもしれない。一方、歌舞伎を見慣れない若いファンに言わせれば、「歌舞伎にもこういう物があるんだ」ということになるだろう。今月、市川染五郎が中村勘九郎、七之助兄弟と上演している東北の歴史上の勇者・阿弖流為(あてるい)の姿を描いた作品である。 続きを読む
夜の部は、昼の部の『新薄雪物語』の通しの続きで『広間』、『合腹』と続き、あまり上演の機会がない『正宗内』までを見せ、完結(原作はまだこの後の場面がある)。最後に、軽い踊り『夕顔棚』で8時10分過ぎの終演だ。時間の関係で昼の部の『花見』、『詮議』から一気に通して上演できないことは百も承知だが、いかにも観客に不親切な上演形態で、私も何度かこの芝居を観ているが、こうした形には初めてぶつかった。夜の部だけを観ても、何が何だか判らない部分も多いだろう。入り口で登場人物の相関図を観客全員に配布するほどであれば、野暮を承知で夜の部の最初に10分か15分、役者が「今までのあらすじ」を『伊達の十役』のようにパネルなどを活用して見せた方がまだしも親切というものだ。 続きを読む
昼夜に分けて、ふだんは上演しない『正宗内』まで通しての上演である。昼の部は、橋之助、魁春、芝雀らの『天保遊侠録』の後に、『新薄雪物語』の「花見」、「詮議」と上演し、夜の部では「広間」「合腹」「正宗内」を上演し、最後が踊りの『夕顔棚』で打ち出し。 続きを読む
明治座でも恒例になった花形歌舞伎、今月は市川猿之助、市川中車、片岡愛之助、市川右近を中心にした顔ぶれで、エネルギッシュな舞台に汗を流している。 続きを読む
「大逆事件」「幸徳秋水」という単語を聞いて、その意味するところを即座に理解できる、あるいはある程度でもわかる人々が、現在どれほどいるだろうか。「大逆事件」とは、明治44(1910)年に起きた明治天皇の暗殺未遂事件だ。これを機に、当時の社会主義思想者は大弾圧を受け、地下に潜伏することになる。
この時代の人々のことを描き、今から50年以上前の昭和39(1964)年に木下順二が激化したのがこの『冬の時代』で、劇団民藝によって上演されて以来、今回が50年の歳月を経ての再演となる。100年以上前の時代を、50年ぶりに再演する劇団の勇気は大したものだ。恐らく、初演時の出演メンバーはほとんどいないに等しい状況で、丹野郁弓はこの戯曲をどう現代に蘇らせるかに腐心したようだ。全三幕、10分の休憩を2回挟んで3時間を超える大作の台詞劇を、私には当時の「青春群像劇」として見せようとしているかのように感じた。 続きを読む
名古屋・中日劇場の花形歌舞伎は、昼の部が市川猿之助の責任公演、夜が片岡愛之助の責任公演で、それぞれが自分の得意とする演目で競り合い、お互いにゲストの役どころで顔を出すという方式だ。贔屓の役者が決まっている場合はどちらかに比重がかかるが、昼も夜もわかりやすい演目が並ぶ。
参考までに記しておくと、昼の部が市川右近の『操り三番叟』で幕を開け、市川猿之助が早替わりと宙乗りを盛り込んだ『雪之丞変化』を見せ、愛之助と右近が付き合う形だ。 続きを読む
田茂神家の一族
2015.03.13 紀伊国屋サザンシアター
どこかで聞いたような名前の一族である。しかし、おどろおどろしい一族の怨念が渦巻くような話ではない。東北のある村で、6期24年にわたり長期政権を敷いていた村長が、不慮の事故で勇退することになり、急遽選挙が行われることになった。そこへ、候補として名乗りを挙げた面々は、すべて、村長の係累ばかり。村長が田茂神嘉右衛門だから、候補者の苗字は全部「田茂神」である…。確かに、どこからどう見ても「田茂神家の一族」ではある。 続きを読む
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