演劇批評

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壽 初春大歌舞伎 夜の部 2018.01.02

 今年のお正月の歌舞伎座は、37年ぶりの「高麗屋三代襲名」で幕を開ける。九代目松本幸四郎が二代目松本白鸚に、七代目市川染五郎が十代目松本幸四郎に、松本金太郎が八代目市川染五郎にと、それぞれが父の名を襲名する興行だ。どの襲名もおめでたいものだが、「三代」同時は稀で、親・子・孫、それぞれの世代が次の名を襲名するに相応しい活躍をしている、と衆目が一致しなければできることではない。それを二回できるのは、現・白鸚の言葉を借りればまさに「奇蹟」だ。前回の三代襲名は、10月、11月の歌舞伎座で行われた。私はまだ高校生だったが、三階席で観た二ヶ月の舞台はくっきりと焼き付いている。それから37年が過ぎたと思うと、あっという間だと感じると同時に、役者と観客が共に年月を重ねる芸能である歌舞伎の喜びと本質をも感じる。 続きを読む

「欲望という名の電車」2017.12.26 シアターコクーン

 初演から65年を経てもなお、多くの劇団やカンパニーで手掛けている名作である。アーサー・ミラーの『セールスマンの死』と並んで、現代アメリカ演劇の金字塔と称されることも多く、過去の舞台で言えば杉村春子、東恵美子、二代目水谷八重子(上演当時は水谷良重)、栗原小巻、樋口可南子、男優ではあるが「女形」の篠井英介、そして大竹しのぶと7人の「ブランチ」の姿を観て来たことになる。今回の舞台は、2002年に蜷川幸雄が演出したものの再演で、今回は演出にフィリップ・ブリーンが当たっている。 続きを読む

「かがみのかなたはたなかのなかに」2017.12.20 新国立劇場小劇場

 タイトルがすべてひらがなで、一瞬、上から読んでも下から読んでも同じ「回文」ではないか、と錯覚するような珍しい名前だ。2015年に長塚圭史の作・演出で上演されたものの再演で、登場人物は長塚を含め4人。「たなか」に首藤康之、「かなた」に近藤良平、「けいこ」に松たか子、「こいけ」に長塚圭史という配役だ。 続きを読む

「夢一夜」 2017.12.07

「夢一夜」 2017.12.07 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

 加藤健一事務所の100回目の公演は『夢一夜』というフランス系アメリカ人の劇作家、カトリーヌ・フィユーの作品である。現在は、「性的マイノリティ」については「LGBT」という言葉も一般的になり、理解が進み始めているが、そうした人々と、アメリカの「アーミッシュ」と呼ばれるキリスト教の純粋さを維持しながら生活する保守派の人々が主人公になった、面白い芝居を取り上げた。「アーミッシュ」とは耳慣れない言葉で、キリスト教徒がアメリカへ移民した当時の生活様式を基本とし、近代以前の伝統的な技術しか使わずに生活を送る人びとだ。電気を使わず、電話も家庭内には置かずに、集団の中で緊急時のために共用で置き、移動も自動車ではなく馬車を主としている。服装も生活も極めて質素で、現代の利便と欲望からは遠ざかった場所での生活を旨としている。 続きを読む

「十一月 歌舞伎座 夜の部」2017.11.24 歌舞伎座

 顔見世興行・夜の部は、『仮名手本忠臣蔵』から『五段目』と『六段目』、上方狂言の『新口村』(にのくちむら)、真山青果の『元禄忠臣蔵』より『大石最後の一日』と、ボリュームのある献立が並んだ。特に、最後の『大石最後の一日』は、来年1月、2月と親子孫の三代で襲名披露を行う松本幸四郎一家が現在の名で揃って踏む最後の舞台でもある。昼の部の批評でも書いたことだが、「大幹部」クラスはそれぞれの当たり役に一世一代の覚悟で臨んでいるような充実感と、その先を想う一抹の寂しさに溢れる。 続きを読む

「歌舞伎座 顔見世大歌舞伎 昼の部」2017.11.17 歌舞伎座

 来年一月・二月の歌舞伎座での親子三代襲名披露公演を控え、松本幸四郎、市川染五郎、松本金太郎の三代が揃って現在の名前で舞台を踏む最後の公演となった。十一月の顔見世だけあって昼夜共にベテラン・若手と豪華な顔ぶれが並んでいる。その一方で、ベテラン勢にとっては今回が「一世一代」の気持ちで演じている物も多いだろう。歌舞伎界の世代交替を確実に感じさせる公演でもある。 続きを読む

『土佐源氏』2017.10.28 権現の森内「明治の商家」

 現代の演劇から薄れたものの一つが「土俗的なにおい」、平たく言えば「土臭さ」だろう。俳優をはじめ、舞台装置、効果、演出など、芝居を構成する要素がどんどん洗練されてゆく中で、昔ながらの「土臭さ」を持った一人芝居を、コツコツと全国各地で上演している坂本長利の『土佐源氏』。その初演は1967年、今からちょうど50年前のことになる。 続きを読む

『肝っ玉おっ母と子供たち』2017.10.16 能登演劇堂

 考えてみると、最近、ブレヒト(1898~1956)の舞台を目にする機会が一時に比べて減ったような感覚がある。20世紀の演劇史に大きな名前を刻んだ偉大なドイツの劇作家、ブレヒトの代表作の一つ、『肝っ玉おっ母と子供たち』に、84歳になる仲代達矢が無名塾の面々を率いて、能登演劇堂で29年ぶりに上演している。 続きを読む

『アマデウス』2017.09.30 サンシャイン劇場

 初演以来35年、このステージが450回目となった松本幸四郎の『アマデウス』。今回と同じサンシャイン劇場での初演の舞台を懐かしく想い出すと同時に、もうそんな歳月が流れたのか、とも思う。映画化もされたこの作品は、天才として知られるアマデウス・モーツァルトと、その才能に嫉妬する宮廷音楽家・サリエーリとの確執を描いたドラマとして、今回が九回目の上演となる。サリエーリは一貫して幸四郎が演じ続け、モーツァルトは江守徹の初演を経て、その後、幸四郎の子息・市川染五郎、武田真治、今回は桐山照史。モーツァルトの妻・コンスタンツェは大和田美帆。 続きを読む

「想い出のカルテット」EXシアター六本木 2017.09.30

 最近のテレビドラマでは珍しく大きな話題を呼び、つい先日最終回の放送を終えた「やすらぎの郷」。かつて、テレビ界に貢献した人が集まって暮らす無料老人ホームで起きるドラマの数々と、往年の豪華スターたちのキャスティングが注目を集めた。この作品、『想い出のカルテット』は、引退した音楽家たちが暮らす老人ホームが舞台で、2011年にルテアトル銀座で初演、14年に今回と同じEXシアター六本木のオープニング・シリーズとして再演され、今回が三回目の上演となる。黒柳徹子が1989年に当時の銀座セゾン劇場で始めた海外コメディ・シリーズの一作で、今回が第31弾となる。 続きを読む

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