演劇批評

一覧 (9ページ目/全17ページ)

『仮名手本忠臣蔵 第二部』 国立劇場

国立劇場開場五十周年記念公演として、先月から始まった『仮名手本忠臣蔵』の完全上演も二か月目に入った。先月は『大序』から『四段目』までの上演で、今月は『落人』から『五段目』『六段目』『七段目』の上演となる。判官切腹で幕を閉じた先月だが、今月は舞踊、世話物、時代物と同じ芝居でも色合いが異なった幕の上演となった。 続きを読む

「吉例顔見世大歌舞伎」 昼の部

 今年の顔見世興行は、中村橋之助が亡父・芝翫の名跡を、また橋之助の子息三人がそれぞれ襲名をする公演の二か月目に当たる。先代の中村芝翫は女形で、亡くなってまだ時間がそう経っていないせいもあり、「立役の芝翫」にはいささかの違和感を覚える向きもあるだろう。しかし、歴史上の役者を持ち出すまでもなく、今よりも大きな名前を継ぐことで、やがて役者としての芸容が大きくなり、幅が広がればそれで良いのだ。襲名披露は先代のコピーを作るものではない。新たな八代目芝翫が、今後どういう飛躍を見せてくれるのか、そこに期待をする公演だ。 続きを読む

『仮名手本忠臣蔵 第一部』 国立劇場

国立劇場の開場五十周年を記念して、十月から十二月までの三か月をかけて、歌舞伎の三大名作の一つ『仮名手本忠臣蔵』を完全に近い形で通して上演するという、壮大なプロジェクトだ。今から三十年前の昭和六十一年、開場二十周年記念の折にも同様の公演が行われ、当時、昭和の歌舞伎を牽引して来た大幹部の名優たちが揃って演じた。今回は、その折よりも原作に近い上演形態で、平成の歌舞伎を牽引して来た円熟の役者から花形までが顔を揃え、月ごとに配役を変えながらの上演である。 続きを読む

名古屋 顔見世 昼の部 特殊陶業工業市民会館

 十月の名古屋・顔見世興行の昼の部は、坂東彌十郎の弁慶、大谷廣太郎の従者、中村萬太郎の牛若丸による『橋弁慶』で幕を開ける。彌十郎を上置きに据えて若手たちの修行の場、という形だが、30分に満たない踊りでも、長唄に乗っての弁慶との立ち回りに、のちに御大将になる牛若丸の優美さとしなやかな勁さを見せなくてはならない。二人の若手にとっては、よい勉強の場だ。 続きを読む

名古屋 顔見世 夜の部 日本特殊陶業市民会館

 長い間、御園座の名物だった十月の名古屋の顔見世公演も、御園座改築に当たり場所を移しての開催となった。今年は片岡仁左衛門を座頭に、中村時蔵、市川染五郎、片岡孝太郎らの顔ぶれである。名古屋は、中心部から一時間半の圏内に愛知県は言うに及ばず、静岡県西部、三重県、岐阜県を擁しているためか、遠方からの観客の帰りの足を考えて、伝統的に夜の部の終演が早い。厳密に比較検討をしたわけではないが、今までの感覚的な根拠で言えば、終演が8時から遅くとも8時半が目安だろう。それ以降になると、どんなに良い場面でも、観客が席を立たざるを得ない場合がある。大都市でありながらなのか、あるゆえになのか、面白い現象だ。 続きを読む

『露出狂』2016.10.08 Zeppブルーシアター六本木

 いささかセンセーショナルなタイトルの芝居だが、文字通りに捉えると誤解を生じる。中屋敷法仁が代表を勤める劇団「柿喰う客」の人気作の一つであり、2010年の初演以降、男優のみ、女優のみなど、いくつかのバージョンが生まれている。作者本人が演出に当たっているこの作品は、あくまでも精神的な意味での「露出狂」であり、対象となる人々は高校のサッカーチームだ。作者は、体育会に所属する仲間たちを、その考えや行動から「露出狂」と考えた、とプログラムで述べている。 続きを読む

九月歌舞伎座 夜の部

 初代中村吉右衛門の業績を偲ぶために、吉右衛門の俳号・秀山の名を付けた記念の「秀山祭」。今回は、孫で二代目の名を継いでいる吉右衛門、曾孫に当たる市川染五郎などを中心とした一座である。夜の部は、時代物の大作『妹背山婦女庭訓』の中から『吉野川』。客席に両花道を設え、観客席を吉野川に見立てた壮大なスケールの芝居は、一幕で二時間に及び、なかなか上演の機会がない。川を挟んで仲違いをしている男の息子と女の娘が恋に陥る話は、よくシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に例えられるが、一概にそうとは言えない部分もある。確かに設定は酷似しているが、最も大きな違いは、若いカップルの死で終わるか、その後の親を描いているか、の違いだろう。 続きを読む

「娼年」2016.08.30 東京芸術劇場

 「売春は世界最古の職業である」という言葉がある。この言葉には多くの含意や比喩が込められてはいるものの、どこの国でも「売色」という行為が法の網の目をかいくぐり、現在も行われているのは事実だ。この作品は、石田衣良のヒット小説『娼年』をもとに舞台化したもので、松坂桃李が演じる無目的に日々を送る大学生・領が、友人の紹介で「娼夫」となり、彼の身体を求める女性たちに、身体を売る。相手変われど主変わらず、の日々を送るうちに、領の中にある感情が芽生え…という話だ。これを、三浦大輔が脚色・演出し、休憩を挟んで約3時間、濃密な感情が交錯する舞台に仕上げた。 続きを読む

「キンキー・ブーツ」2016.08.04 新国立劇場

 イギリスでの実話をもとに2005年に映画化された作品が、2012年にブロードウエイでミュージカルに姿を変え、そして「日本語版」になった。日本語版の上演台本は岸谷五朗が作成し、同時に演出協力にも当たっている。シンディ・ローパーが手掛けた音楽もノリが良く、明るく、パワフルでしかも温かなミュージカルに仕上がっている。 続きを読む

「母と惑星について、および自転する女たちの記録」パルコ劇場

 来月、改築のために一旦閉館する「パルコ劇場」の新作の公演としては最後の作品になる。今までに上演した作品ではなく、新しい劇場への架け橋の意味を込めて、あえて新作で劇場の幕を閉じる、とのこと。蓬莱竜太の作品を栗山民也が演出している。二人とも、パルコ劇場にはお馴染みの顔だ。 続きを読む

以前の記事 新しい記事