明けましておめでとうございます。
暫くHPの更新をさぼっていた間に、情報化社会で「取り残されること」を体感した。何らかの形で常に情報を発信し続けるには多大なエネルギーが必要だ。今年は「子年」で干支のはじめの年でもある。どこまで続けられるか、芝居国の種々雑多な話題を毎週書ければと思っている。 昨年の秋、単著で五冊目になる『明治・大正・昭和・平成 芸能史事典』を上梓した。この出版不況の折に本が出せるのは誠にありがたいことで、原稿用紙に換算して1,800枚、560ページ、重さ1.5キロの大著になった。もはや、「書籍」ではなく「凶器」のような重さになってしまった。 いつ、何を書いても感じることだが、書いている間は夢中でその世界に没入している。ようやく書き終え、世の中に出て行けば、もう私の手は離れる。その瞬間に、どうしようもない後悔に襲われる。「あそこをこうしておけばよかった」「もう少し時間があれば…」などなど、自分への言い訳はいくらでも出てくる。いくら長寿社会とは言え、間もなく60に手が届こうというのだから、少しはまともな物が書けてもよいはずだ、とは思うのだが。
こうした時に『初心忘るべからず』の言葉を思い出す。言うまでもなく能楽の大成者・世阿弥の言葉だが、昨今誤解されて理解されている節もあるようだ。「何事かを始めようと思った時の情熱や、やる気を忘れないようにしよう」と前向きの解釈をするケースが多いようだが、世阿弥の真意はここにはない。「初めて演じた時の己の技術の拙さ、その恥ずかしさを忘れることなく、驕ってはいけない」という意味だ。 年頭でもあり、今一度、この言葉を噛み締めながら新たな年の始まりにしようと誓う次第。しかし、「言うは易く行うは難し」との便利な俚諺もあり、どうもこちらの方に寄り添ってしまう。とかく怠惰に流れがちな己をいかに律するか、真面目に考えはするものの、実行に移せないところが実に何とも…なのだ。この部分は、読者の方々からも賛同を得られるのではないだろうか。
昭和、平成、令和と演劇の世界も大きな変転を遂げ、激しい時代の荒波の中にいる。「2.5次元ミュージカル」「バーチャル・アイドルとの共演」「マンガを基にした新作歌舞伎」など、昭和期には観られなかった多彩なステージが繰り広げられている。その一方で、何を観ても虚ろに感じる折もある。 今年は東京でオリンピックも開催され、世界各国からのお客様を迎えて賑やかな一年になるだろう。その中で、「芸能」がどのような役割を果たせるのか。「ことば」「せりふ」を主体にした「演劇」には、国が違えば「言葉の壁」の問題が立ちはだかる。裏側には、その国が閲してきた歴史や長い時間で培われた思想の問題が大きく横たわっているのは言うまでもない。 その中で、「和太鼓」や「殺陣」のように、言葉を必要としない「非言語のパフォーマンス」、いわゆる「ノンバーバル・パフォーマンス」が大きく注目される年にもなるだろう。 二年目に入った「令和」の芸能の変容を、今年も確かめなくてはならない。