エッセイ

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私が選んだ100本 016.『アマデウス』作:ピーター・シェーファー 2017.07.24

 この秋に、松本幸四郎が現在の名前では最後の『アマデウス』を演じる。映画でも知られるこの作品は、天才・モーツァルトと、その才能に嫉妬の炎を燃やす宮廷音楽家・サリエリとの対立を描いたものだ。男の嫉妬ほど醜いものはないとはよく言われる話で、理性的なはずの大人でさえも隠せないほど、人間の根源的な感情なのだろう。 続きを読む

私が選んだ100本 015.『仮名手本忠臣蔵』

 歌舞伎の「三大名作」として人気が高く、2016年には国立劇場開場50周年記念公演として10月から12月までの三ヵ月をかけて30年ぶりに「完全上演」を行った。「忠義」や「恩義」という感情に対する感覚が変って来た時代の中で、『忠臣蔵』も庶民の一般教養との距離が出ていることは否定できない。 続きを読む

私が選んだ100本 014. 『近代能楽集』作:三島由紀夫  2017.07.10

 小説だけではなく、戯曲にも『鹿鳴館』などの名作を遺した三島由紀夫が、能の作品から何点かを選び、現代劇にしたものが『近代能楽集』だ。昭和31年から43年にかけて間歇的に発表されたもので、『邯鄲(かんたん)』『綾の鼓』『卒塔婆小町(そとばこまち)』『葵上(あおいのうえ)』『班女(はんじょ)』までが第一弾。しばらく間を置いて『道成寺』『熊野(ゆや)』『弱法師(よろぼし)』の3曲を加えた全8曲になり、9作目の『源氏供養』を発表したものの、本人の意思で廃曲とした。なぜ、最後の『源氏供養』を廃曲にしたのか、理由は分らず、現在『近代能楽集』として上演されるのは全8編である。ただ、1981年に、国立小劇場で『近代能楽集』から3編を上演した折になぜか『源氏供養』を観ている。三島の死後11年後のことで、どういう経緯でこの時上演されたのか、今となっては定かではない。 続きを読む

013. 『桜の園』作・アントン・チェーホフ 2017.07.03

 戦後の一時期、新劇団が競って『桜の園』を上演していた時期があった。俳優座は東山千栄子のラネーフスカヤ、劇団民藝は細川ちか子、だいぶ後になって文学座の杉村春子と、それぞれの劇団の看板女優が演じている。この中で私が観たのは杉村春子の『桜の園』だけだが、さしもの名優・杉村春子もロシアの優雅な貴族夫人にはなれなかったのを覚えている。 続きを読む

私が選んだ100本 012.『毒薬と老嬢』作:ケッセルリング

 1948年にヒットしたアメリカ映画で、二人の老女が主人公の珍しいコメディだ。日本での初演は1951年7月、東京・日本橋の三越本店内の三越劇場で、「三越現代劇第二回公演」として轟夕起子、三島雅夫らによるものだ。その後、賀原夏子が率いるコメディ専門の劇団NLTが1987年に初演し、1991年、1998年、2002年と好評を受けて繰り返し上演しており、1991年に賀原が亡くなってからは、客演の形で淡島千景、淡路恵子の二人が演じた。コメディに興味を示す役者は多いが、かなり高度な技術を必要とするのも事実だ。 続きを読む

011.『東海道四谷怪談』作:四世鶴屋南北

 歌舞伎の「怪談」と言えば、まずこの作品の名が挙がるのではないだろうか。江戸時代もそろそろ終わりに差し掛かろうという1825(文政8)年に、鶴屋南北の手によって書かれた歌舞伎だ。多くの人々が知る話の内容は、民谷伊右衛門という悪人が、自分の妻・お岩に顔の変わる薬を飲ませ、その祟りに苦しむ、という辺りだろうが、それ以外には何が描かれていたか、となると「?」という形だ。もっとも、我々の名作に対する知識はそういうもので、海外の名作にしても学校で題名だけは暗記させられた…というものが多い。 続きを読む

私が選んだ100本 010.『ハムレット』2017.06.12

 日本の演劇史の中で、今までに最も多く演じられた翻訳劇ではないだろうか。作者は言わずと知れたシェイクスピア(1564~1616)。『ハムレット』に『オセロー』、『マクベス』、『ロミオとジュリエット』の四大悲劇はあまりにも有名だ。 続きを読む

私が選んだ100本 009.『元禄忠臣蔵』

 劇作家の真山青果(1878~1948)が、歌舞伎の『忠臣蔵』のもとになった「赤穂事件」を、史実を丹念に調べ、全10編にわたってこの事件を描いた連作の歌舞伎、とでも言おうか。1934(昭和9)年に最終編の『大石最後の一日が上演され、1941(昭和16)年に『泉岳寺』が上演されるまで、実に7年をかけた大作である。 続きを読む

私が選んだ100 本 008.『王女メディア』2017.05.29

 今回はギリシャ悲劇。作者のエウリピデスは紀元前480年頃の生まれで、紀元前406年頃に亡くなったとされている。今から約2,500年も前に、高度な劇的要素を持つ作品が上演されていたことには驚くばかりだ。古い時代のことゆえ、曖昧な部分も多いが、70年を越える生涯の間に90本以上の戯曲を書いたとされているが、現在確認が可能なのは、『バッコスの信女』、『アンドロマケ』、『メディア』など、19編しかない。いや、19編も残っている、と言うべきだろうか。 続きを読む

私が選んだ100本 007.『修禅寺物語』岡本綺堂

 歌舞伎には「新歌舞伎」というジャンルがある。明治以降に歌舞伎のために創られた作品を指す。坪内逍遥(1859~1935)、岡本綺堂(1872~1939)、真山青果(1878~1948)長谷川時雨(1879~1941)など、江戸時代の歌舞伎の世界には身を置かず、明治以降に小説家や批評家などの文筆家として身を立てていた人が、歌舞伎に提供した作品、という解釈が最もしっくりくるだろう。今の歌舞伎のレパートリーにも「新歌舞伎」、つまり明治以降の作品がずいぶん含まれている。 続きを読む

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