「新型コロナウイルス」の影響で舞台芸術のほとんどが大きな打撃を受け、そろそろ再開してはいるものの、まだ回復しているとは言えない。同時に、時代の変化や多様化する芸能の中で「歌舞伎」「人形浄瑠璃」「日本舞踊」「邦楽」など、日本古来の「伝統芸能」への興味や関心が薄れていることももう一つの側面として否定できない。
そんな中で、10年ほど前から、主な日本舞踊の流派の舞踊家・五人が流派を超えて「これからの日本舞踊」のために立ち上がり、『五耀會』という会を結成した。
西川流の西川箕之助(にしかわ・みのすけ、1960~)、藤間流の藤間蘭黄(ふじま・らんこう、1962~)、山村流の山村友五郎(やまむら・ともごろう、1964~)、花柳流の花柳基(はなやぎ・もとい、1964~)、花柳寿楽(はなやぎ・じゅらく、1967~)の五人である。中堅からベテランへ差し掛かろうという世代の舞踊家が、次世代へ日本舞踊の魅力を伝えるために行動を起こしたのだ。
以来、「古典」と「新作」の二本の柱で作品を披露して来たが、今年は「コロナ禍」で通常の劇場公演が開催できず、無観客での上演を動画配信することとなった。
こうした試みについて、西川流の西川箕之助さんに伺った。
-『五耀會』の活動も、もう10年を超えましたが、当初の「志」がぶれることなく続いているのは素晴らしいですね。
西川 ありがとうございます。これは、他の古典芸能にも言えることだと思いますが、いわゆる「昔のやり方」で大ベテランから古典を教わったのは、僕たちが最後の世代になるのかもしれない、という想いがあります。また、逆に「新作」に関して、今までの経験をもとに、柔軟な考え方で取り組める世代でもあります。もちろん、先輩方もその時代時代で新作舞踊を創ってこられ、今に残る作品もたくさんありますが、我々の世代の「新作舞踊」があってもいいのではないか、と。そんなところから、流派を超えて「古典」と「新作」の二本の柱で舞踊会を開催し、新しいお客さんに踊りの魅力を知っていただきたいというのが、この会の目的です。
-同じ日本舞踊でも流派の違い、ということが問題になることはありませんでしたか?
西川 それはありませんでしたね。流派こそ違え、「想い」や「志」は一緒ですし、「日本舞踊」という根っ子も同じですから。逆に、違う流派の方々と一つのプロジェクトのような形で舞踊会を開催することで、新しい化学反応のようなことが起きればそれはそれで面白いじゃないか、という感覚ですね。
-とてもフレキシブルですね。
西川 「日本舞踊」や「邦楽」と聞くと、昔からの物をひたすら守って伝統を継承するようなイメージがありますが、それだけでは「伝統」にはならないと僕は思います。時にはどこかで破壊したり、既成概念とは違うことをしながら、「時代」と共に進み、歳月を重ねるからこそ「伝統」になるのではないかと。
もちろん、先人が遺した過去の作品や踊りから学ぶものは大きく、意味があります。ただ、それだけを繰り返していても「発展」にはつながらないのではないか、という気がします。
―それは歌舞伎なども同じですね。今、「新作歌舞伎」もずいぶん増えました。
西川 そうだと思いますよ。今、「コロナ禍」の影響で舞台芸能は非常に厳しい状況に置かれています。中でも「古典芸能」は、時代の変化と共に一層の厳しさの中にいます。しかし、「魅力」がなければ300年以上の伝統を紡ぐことはできません。今の時代にあった、新しい魅力を発見し、創ることが、我々『五耀會』の大きな目的の一つです。
今年は、残念ながら劇場での公演は叶わず、代わりに動画での配信ですが、「コロナ禍」が落ち着きを見せた時に、「あぁ、日本舞踊にはこういう面白さがあるのか」ということを、少しでも多くの方々に知っていただきたいですね。
-その日が一日も早く来ることを願っています。ありがとうございました。
※配信は11月8日(日)~。
詳細は https://goyoukai-beatthecovid19.peatix.com/
「五耀會」HP国内公演のページへ。